東京高等裁判所 昭和50年(行ケ)104号 判決
一 前掲請求原因のうち、本願発明につき、出願から審決の成立にいたる特許庁における手続、発明の要旨及び審決の理由に関する事実は当事者間に争いがない。
二 そこで、右審決に原告主張の取消事由があるか否かについて考察する。
(一) その発明の要旨に成立に争いのない甲第二号証(本願の特許公報)を併せ考えると、本願発明は、原告主張の前掲(イ)、(ロ)及び(ハ)の事項を構成要件とするきわぞり刃付き電気かみそりであつて、その構成要件が結合されることによつて、一個の作動レバーについて出入の操作をすれば、これに応じてきわぞり刃が出入すると同時に、動力伝達機構においてモータ回転軸と回転刃及びきわぞり刃とが交互に係合離脱して、回転刃またはきわぞり刃がそれぞれ単独に動作することになり、したがつて、回転刃ときわぞり刃との切換が的確に、かつ、簡単な操作で行なわれるという作用効果を奏することを認めることができる。
被告は本願発明の特許請求の範囲には作動レバーとクラツチ機構との関連する構成が特定されていない旨を主張するが、本願発明の要旨は、「回転軸」ときわぞり刃を装着した「作動レバー」の出入方向とを「直交する」と限定した(前記(イ)の要件の一部)うえ、回転軸には「作動レバーの出入により上下動し、かつ、この上下動により回転刃の軸と係合離脱する機構を装着し、回転刃ときわぞり刃とが単独に動作するようにすること」を定めている(前記(ハ)の要件)から、さらに前記(ロ)の要件たる事項が加われば、これにより、当然さきに設定の作用効果の発生が可能であることが明らかであるから、作動レバーとクラツチ機構との関連する構成は本願発明の要旨において特定されているといつて妨げない。もつとも、クラツチ機構及びそれを作動レバーの出入により上下動させる機構の具体的構成は本願発明の要旨に示されていないが、その程度のことは右機構に関する周知技術を用いて実施すれば足りるものと考えるのが相当である。
(二) ところで、審決は、第一引用例のものに本願発明と相違し、「筐体に回転軸と直交する方向に出入しうる作動レバーを有するきわぞり刃を装着」した構成及び「作動レバーの出入により上下動し、かつ、この上下動により回転刃の軸と係合離脱する機構を装着」した構成がない点を認めながら、これに周知の上下動クラツチを施して本願発明のように構成したところで格別の効果を生じないとして右構成の発明力を否定している。しかし、成立に争いのない甲第三号証(第一引用例)によると、第一引用例のかみそり器において、長髪理髪刃(本願発明におけるきわぞり刃)はかみそり本体に固定されたものであり、また、その駆動連結装置(クラツチ)は、モータの回転方向を正逆に変換することによつて、長髪理髪刃部及び短髪理髪刃部の駆動を交互に切換えるものであることが認められるから、これに周知の上下動クラツチ(その周知であることは原告も争わないところである。)を施しても、単に駆動連結装置を上下動クラツチに置換えた構成が得られるだけであつて、本願発明のように、作動レバーの操作によつて、きわぞり刃が本体から出入すると同時に、回転刃及びきわぞり刃が駆動機構と交互に係合離脱して、それぞれ単独に動作するという作用が行なわれるようにはならないことが明らかである。被告は第三引用例に示されるクラツチ機構もワイヤーの上下動作により本願発明と同じ効果を奏する旨を主張するが、成立に争いのない甲第五号証(第三引用例)によると、第三引用例のクラツチ機構はワイヤーの上下動によつて単に軸の回転運動を断続するだけのものであることが認められるから、作動レバーの出入操作によつて、回転刃の軸の回転運動との係合離脱だけでなく、同時にきわぞり刃の出入及びその駆動機構との係合離脱をも行なう本願発明のクラツチ機構と同効であるとは到底いうことができない。
また、成立に争いのない甲第四号証(第二引用例)によると、第二引用例には、きわ毛剃歯(本願発明におけるきわぞり刃に相当)付き電動機式電気かみそりにおいて、モータ回転軸と直交する方向に出入し得る振動伝達レバー(本願発明における作動レバーに相当)を有するきわ毛剃歯を備え、右レバーの出入動作によつて、きわ毛剃歯の駆動機構との係合離脱を行う構成が示されているが、右レバーはモータ回転軸と直交する方向に出入するものであること、これから推して、右レバーは、第三引用例における上下動クラツチ機構のように上下方向、すなわち回転軸に平行する方向に運動するものではないことが認められるから、仮に第一引用例のものに上下動クラツチのほか、第二引用例のものを加えたとしても、結局、本願発明のように、モータ回転軸に、それと直交する方向に出入する作動レバーによつて上下動し、かつ、この上下動により回転刃の軸に係合離脱する機構を装着するという技術思想は達成されないことにならざるをえない。
(三) そうだとすると、本願発明の構成には第一ないし第三引用例のものから期待することのできない特有の作用効果があることになるから、各引用例との対比上、本願発明の進歩性を否定した審決の判断は誤りであつて、審決は違法であるというべきである。
三 よつて、本件審決の違法を理由にその取消を求める原告の本訴請求を正当として認容する。
〔編註〕 本件に関する図面は左のとおりである。
別紙第一図面
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別紙第二図面
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別紙第三図面
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